47名90句 森山文切選 | ||
なんで消すんだよセンサー付きトイレ | ヨッシー | |
脇道にそれていますよシンデレラ | 冬子 | |
夏バテか蝉はそそくさ店仕舞い | はな | |
お互いの笑いがずれる翻訳機 | 武良銀茶 | |
太陽も自律神経乱れてる | まさよし | |
落雷の騒ぎ晩夏の祭り唄 | アゲハ | |
脳内に巣食ったデマの見本市 | 須賀琉 | |
人の世を捨てきれなくてシュノーケル | 西沢葉火 | |
埼玉じゃ最先端のサイコパス | あまの太郎 | |
逮捕して逮捕してもう笑わせて | 芍薬 | |
空っぽの犬小屋洗う殉教者 | 福村まこと | |
悪党の首を洗ってさしあげる | くみくみ | |
手こずらす仔馬大化けする予感 | ホッと射て | |
台風の進路相談員不在 | 海月漂 | |
手掴みのブルームーンが凍えてる | 霧島龍 | |
ちがうけど一緒に相撲でもいいよ | 御殿山みなみ | |
どこまでも生きる納豆かき混ぜる | 尾崎良仁 | |
朗らかなヒマワリわはははと猛暑 | 敏治 | |
B面に入ったとたん伽藍堂 | toron* | |
舌を出すオフショルダーの谷間から | くに | |
アボカドの柔さを看取る熱帯夜 | 八条ハチ | |
皿洗い童話の中にいるみたい | 真島凉 | |
うずまきメガネの変人ですどうぞ | 藤井智史 | |
佳 作 |
肩こりによくきくアクセント辞典 | 斎藤秀雄 |
放課後のホテイアオイのぽあんぽあん | 岩根彰子 | |
辻褄のあわぬ劇中劇の馬 | 秘まんぢ | |
7本の楽譜にしよう夏の雨 | 真島芽 | |
無呼吸がせがむ猪木の平手打ち | 阿部千枝子 | |
人 | 少しだけ酸素が薄いセルフレジ | よーこ |
評:危険なので酸素ボンベが必要ですね。 | ||
地 | ライオンの歩幅で核心に迫る | くみくみ |
評:肉食系 | ||
天 | 姉さまのアイス最中は埋めました | いなだ豆乃助 |
評:姉さま「せめて食えよ」 |
先週に続き没の句を1句掲載してしまい掲載後に削除しました(8/30 8:27am)。投句者の方にはご迷惑をおかけしました。申し訳ございませんでした。
天の句、その技と心
姉さまのアイス最中は埋めました いなだ豆乃助
論理的に句の背景を考えていく。以下、句の主語としての一人称を「わたし」と表記する。
「わたし」には姉がいて、「わたし」は姉のことを「姉さま」と呼んでいる。ちびまる子ちゃんのまる子は姉のことを「お姉ちゃん」と呼んでいるが、お姉ちゃん、姉ちゃん、姉さん、あるいは沖縄だと名前で呼び捨てが普通である。「姉さま」という短い表現で、「わたし」と姉がアニメに出てくるような清楚なお嬢様キャラであることが示されている。
この句は口語的で「わたし」のセリフと考えられる。姉に対してのセリフと考えるのが自然だ。このセリフが最も効果的なのは、姉の大好物がアイス最中である場合である。「姉さま」は清楚なお嬢様キャラを捨ててブチ切れるかもしれない。
私(文切)はチョコモナカジャンボが大好きなので「姉さま」の気持ちはわかる。「あれっ、ジャンボチョコモナカだっけ、チョコジャンボモナカだっけ?」と悩み、結局どっちでもないという点もチョコモナカジャンボは愛おしい。
下五が「食べました」ならありがちな喧嘩になりそうだが、「埋めました」である。食べてしまったのならどうしようもないが、埋めてあるなら物理的には存在している。埋めたのが昨日ならもうドロドロだろうが、2分前なら掘り出せば洗って食べられるかもしれない。アニメなら掘り出す描写に発展するかもしれない。「食べました」と「埋めました」の比較では、後者の方が嫌がらせの要素が強まり、「わたし」と「姉さま」の関係性を強調している。
アイス=愛す、最中=さいちゅう、という隠れた意味も句に影響を与えているのだが、これについて語ると私のジャンボチョコモナカが溶けてしまうので別の機会とする。ん、チョコジャンボモナカだっけ?
没のポイント3(おやつリスペクト)
1 無意味な破調
長い名詞を使っていて破調が避けられないとか、破調でなければできない表現であるとか、必須の場合以外は、没です。
2 中途半端に奇抜
言葉の組み合わせの妙だけで実感がない、何のイメージも示せていない句は、没です。
3 その他諸々
あれやこれやで、没です。