50名95句 森山文切選 | ||
ラーメンがあるから明日も大丈夫 | 真島芽 | |
豊漁の秋刀魚を待っている小銭 | 彦翁 | |
お酢ドリンク酷暑へからむ酔っ払い | 芥子 | |
手も足も出せずウィンクする達磨 | 宮坂変哲 | |
愛だけをさがせ俺の言葉から | 秘まんぢ | |
夕立がゲリラに変わる温暖化 | 小林祥司 | |
満足の隙間が愛に飢えている | 八郎 | |
読み方と文化をゆるす放生会 | むぎのあわ | |
一昨日の天気予報が戦犯に | 海月漂 | |
きぬかつぎつるりゴメンネはしない | よーこ | |
やさしさを包み損ねた卵焼き | 秋鹿町 | |
食券をちぎって放る濡れている | 西沢葉火 | |
逆光の胸の谷間に咲いた恋 | 敏治 | |
新潟のロックバンドを食べる蛸 | 平出奔 | |
点Pがこの時空から動かない | toron* | |
三味線に愛されちゃった猫なのよ | いなだ豆乃助 | |
嗚呼秋刀魚人智の及ばざる焦げ目 | 岩根彰子 | |
ゆっくりと空気を抜いたカラスウリ | くに | |
落款のように顔出すヒッチコック | ヨッシー | |
えんぴつの産むぼんやりとした卵 | 斎藤秀雄 | |
悔しくてサラダ記念日また開く | 小俵鱚太 | |
踏み外したものから順に蝶になる | 門脇篤史 | |
学校も自転車小屋も急に秋 | 真島凉 | |
匂い嗅ぐおんな立方体になる | 尾崎良仁 | |
佳 作 |
干し芋はいつも本気で攻めてくる | 畑中玉菜 |
風景として鉄オタに許される | 御殿山みなみ | |
少なめの破線をなぞる雨の日々 | 杉倉葉 | |
季が巡り割れないお皿また使う | 徳重美恵子 | |
駄菓子屋の隅で売られる出会いクジ | 若枝あらう | |
人 | 嫌味には鈍いタイプの能力者 | 岩倉曰 |
評:ニブニブの実でも食べたのでしょうか。食べていなかったとしても十分に通じる表現です。 | ||
地 | 虚無感を訴えている冷蔵庫 | toron* |
評:何か入れてあげましょう。 | ||
天 | ぞうさんみたいに小さくあるこうね | 西沢葉火 |
評:ゾウの歩幅はおよそ150cm。それが小さいか・・・なんて野暮なことを言ってはいけません。 |
天の句、その技と心
ぞうさんみたいに小さくあるこうね 西沢葉火
「ぞうさん」には大きなイメージがあるが、「小さく」と通常とは逆のイメージが示されている。「象」と「ぞうさん」を比較すると「ぞうさん」の方が小さいイメージには近い。また、子供に語りかけるような「あるこうね」という表現によって小さいイメージに近づけている。
句の主張から離れて技術的な部分を考えてみると、漢字が「小」のみであるのが目立つ。「小」の形は「ぞうさん」を正面から見た形に似ている(左右の線が耳、真ん中の線が鼻)。また手を振って歩く姿にも似ている(左右の線が腕、真ん中の線が体)。意味から離れれば、みたい=見たい、さく=柵と捉えることができ、動物園の「ぞうさん」に関連する言葉も使われている。
「そんなむちゃくちゃな」「こじつけじゃねぇか」と思われる方もいるかもしれないが、意味とは関係がない音や形も句の印象に影響を与える。読者が上記のような技術的事項を意識していなくても、である。
ひらがなと子供に語りかけるような表現により、童話のような、絵本のような世界観が生まれ、前述の技術的な事項も相まって読者の本能的な部分を強く刺激する句になった。
天の句、どこかしら絵本のよな気がしてなりませんでしたが、成程「小」の字が具体的なイメージを喚起させてたんですね。つづく「さく=柵」で動物園。いやはやナットクでありました!
コメントありがとうございました。我ながら怪しい論の展開ですが、ナットクいただきありがとうございます。
没のポイント3(おやつリスペクト)
1 説明句
辞書に書いてあるような普遍的事実を述べただけの句は、ボツです。
2 動く固有名詞
第125回でも書きましたが、他の言葉でも成立し、その言葉でなければ示せない主張がない句はボツです。特に固有名詞は動きやすいので、その固有名詞でなければ示せない主張なのかよく確認してください。
3 その他諸々
ボツニスル菌
とても丁寧な選評を、どうもありがとうございました。
実は最近、まったく川柳ができなくなってしまい、毎週欠かさず続けてきたはずの投句も、ついに一回途絶えてしまいました。
そんな時ふと、身近な家族の思い出や気になった出来事を川柳にしてみたらどうかと思い立ち、詠んでみました。
もちろん今までも家族を詠んだことはありますが、もっと意識的に、自分たち家族にしかわからないような川柳にしてみようかと思ったのです。
それは、川柳をより自分に近づけてみたいなという考えからでした。
やってみると、あれほど出てこなかった言葉が、不思議なことに自然に浮かんでくるようになったのです。
今回選んでいただいた句は、その中の一句です。
この句は、僕の家族以外は絶対に知るはずのない場面を描いています。表現の工夫はしましたが、ほとんどメモのようなものです。
でも、だからこそ、自分に近づいた川柳になったと思うし、人の心を動かすこともできたのかなと、今、考えています。
これを励みに、また投句を続けていきたいと思います。今後もよろしくお願いします。
コメントありがとうございます。
気軽に気楽にがモットーの毎週web句会です。今後もご自分のペースでご投句いただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。
大会や句会の披講の時に「順不同です」って言われると、心からがっかりします。
選者の方は大変だと思うけれど、今まで通りでお願いしたいです。
コメントありがとうございます。
今まで通り頑張ります。
天の句、その技と心
没のポイント3(おやつリスペクト)
は明日掲載します。
入選句の掲載順について改めて述べます。
川柳では「到着順」「順不同」など明記がない場合は、後の句ほど選者が良いと判断した句です。ただし、厳密に「後ほど良い句」とすると最初の句が入選句の中で一番下の句となります。掴みは肝心ですので、最初の何句かは力のある句が選ばれる傾向があります。
毎週web句会では、最初の2句は佳作に近く、ユーモア、時事性などインパクトがあると判断した句としております。3句目が入選句の中では一番下と判断した句で、後は順に良くなっていきます。
「到着順でいいよ」という意見が多ければ到着順にします。ご意見いただけたら幸いです。