44名87句 森山文切選 | ||
丸投げの仕事丸めて投げ返す | 袴田朱夏 | |
網棚に部長が置いたファッション誌 | 甘酢 | |
たっぷりと込めた皮肉が通じない | 彦翁 | |
0と1抱き合わせればほら未来 | たにゆめ | |
透明人間に飼われる透明犬 | 岩倉曰 | |
走馬灯二秒で終わる悲しみよ | あまの太郎 | |
茶柱のエールに伸びる万歩計 | 澤井敏治 | |
靴下に爪のアートをしまう秋 | 淀美佑子 | |
躊躇わぬ君の強さとピアノソロ | 藤沢修司 | |
消化の良い言葉しか欲しがらぬ耳 | 青砥たかこ | |
三人の娘育てる四角形 | まさよし | |
瓶ビール残して帰るオトナになりたい | サトシワタナベ | |
カシミヤのセーター今日の指名打者 | くに | |
僕が喋るとそれが川柳 | ヨッシー | |
曇り空によるひとつの試着室 | 平出奔 | |
防音シート鉄骨をひっぱたく | 畑中玉菜 | |
猫からの土産(おそらく消去法) | 内山佑樹 | |
恋破れ新装開店の痛み | 冬子 | |
靴下が穴そのものと気付く朝 | 西沢葉火 | |
死にたがる人で賑わうタイムライン | 小俵鱚太 | |
賑やかな中で孤独な隅の椅子 | 小林祥司 | |
睡眠不足なマグロが飲むココア | 若枝あらう | |
悪いユニコーンに騙されて渋谷 | 中村佐貴 | |
失恋の盾にならないコンドーム | 秋鹿町 | |
佳 作 |
なんとなくワンダーコアに乗る化石 | 藤井智史 |
粘り勝つ九官鳥とのしりとり | 香菜 | |
孤独でしょうかラー油を足しましょうか | 尾崎良仁 | |
マスキングテープの下にある地獄 | 門脇篤史 | |
砲台の動力になめくじも要る | 田村わごむ | |
人 | ライバルの眉間をせまくする稽古 | 斎藤秀雄 |
評:サイコキネシスで。 | ||
地 | 盛り塩のように末尾にある絵文字 | 笹川諒 |
評:絵文字にも正式な作法が、あったりなかったり。 | ||
天 | 柚子ひとつ残して地球平面化 | 川合大祐 |
評:必殺ひとつ残し |
天の句、その技と心
柚子ひとつ残して地球平面化 川合大祐
飲み会で、大皿に唐揚げなどがひとつだけ残ってずっとそのままになっていることは皆経験があるだろう。関西では「遠慮のかたまり」、関東では「ひとつ残し」といわれており、各地にこの現状を示す言葉があるようだ。
この現象が発生する原因となる「遠慮」「思いやり」といった感覚は外国人に希薄なようで、頻発する国は日本だけのようである。
世界中で争いが起きている。地球は丸いはずなのに、ぺちゃんこになってしまった。ぺちゃんこの平面化された地球には「人間」はいない。物理的には存在しているかもしれないが、ひとつだけ残った柚子に目を向けるような、爽やかな香りに気付けるような、「人間」はいない。
ぺちゃんこの地球にぺちゃんこなヒト。平面化された地球に残された、たったひとつの立体である柚子。柚子からの爽やかな香りも、もはや哀しいだけである。誰にも気付かれないまま腐るのを待つしかないのか。
でも絶望することはない。ぺちゃんこの地球で腐ってしまった柚子からは、やがて芽が出て、木になり、たくさんの柚子が実る。平面化した地球の、小さな希望。
あなたの心の平面化した部分にも、きっと柚子はある。
没のポイント3(おやつリスペクト)
1 よく使われる言葉による、よくある想
よく使われる言葉を使うことは必ずしも悪いことではありませんが、主張までよくあるものになってしまうとボツです。
2 ぎゅうぎゅう詰め
言葉がたくさんありすぎてぎゅうぎゅう詰めになってしまっている句はボツです。読者を信じて思い切って省きましょう。
3 その他諸々
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