57名110句 森山文切選 | ||
クリスマスソングに乗せて土下座する | 中村佐貴 | |
デボン紀の洗濯機からもれる砂 | 門脇篤史 | |
換気扇回して外の空気読む | とわさき芽ぐみ | |
思い出を共有すると苦くなる | 青砥たかこ | |
半分に切って本音を覗かせる | 彦翁 | |
わたくしの架空を虎がゆく音か | 亀山朧 | |
鏡台に置いてあったな『桃の花』 | ヨーグルト | |
同僚のタグが気になる午後三時 | 真島朱火 | |
深まる秋父の髪まで霜降りに | 田原勝弘 | |
探偵と部屋干しのハンチング帽 | 小俵鱚太 | |
しばらくは尖ってますと蟹の爪 | 宮下倖 | |
純情な秋刀魚の腹を探る妻 | 多舵洋 | |
明日あたり棒立ちになる銀杏 | 岩根彰子 | |
ぱたぱたのたのときくちびるのさびし | 斎藤秀雄 | |
成否など知らぬ存ぜぬ栗ご飯 | むぎのあわ | |
君の名は巻き舌できんから読めん | 香菜 | |
別の龍しろがねの尿まき散らし | 川合大祐 | |
どつかれて緩衝材のプレッシャー | 冬子 | |
換気扇フェイクニュースを吐き散らす | 藤沢修司 | |
終電車うさぎの耳を付けたまま | 平井美智子 | |
曖昧な返事に溶ける角砂糖 | 福村まこと | |
さりげなく無糖の恋をしています | くに | |
海辺では人魚のはずの魚人たち | 御殿山みなみ | |
ハッピーターンかかげ三日月かえりみち | 真中北辰 | |
佳 作 |
竜宮で踊る魚の生活苦 | 犬井隆太 |
真四角な女の尻に無抵抗 | 阿部千枝子 | |
カラスから任されているビット列 | 絵空事廃墟 | |
ふりかえるたび透明な百合が咲く | 秘まんぢ | |
マンホールの蓋を選んで死ぬ羽虫 | 岩倉曰 | |
人 | キリストの切手を貼って送り出す | 芍薬 |
評:差出人 左の頬 | ||
地 | LAWSONの青が眩しい世紀末 | あまの太郎 |
評:救世主の溜まり場 | ||
天 | ぬかるみを缶ぽっくりのまま進む | 秋鹿町 |
評:かっぽかっぽとはいかないけれど。 |
こんばんは★選評、オトナになっても失われない/失ってはならないものの一つに「缶ぽっくりでぬかるみを進む」というのがあることを、この句で気づかせてもらいました。ありがたき幸せデスw
やはり牧歌的、絵本的な印象がしましたが、その理由も、文切さん必殺の因数分解によって納得・・・あゝ、るみ (爆)
コメントありがとうございます。
るみとは3年ちょっとお付き合いしました。
今では外国の方と結婚して、幸せだそうです。
天の句、その技と心
*文中の「わたし」は、句の主語としての「わたし」です。
ぬかるみを缶ぽっくりのまま進む 秋鹿町
この句のキモは「缶ぽっくり」である。懐かしさを感じさせる具象であるが、現在でも幼稚園などで使われており、現に私のうちにもある。
「缶ぽっくりのまま」であるから、「わたし」は今まさに缶ぽっくりに乗っている。底なし沼や濁流に挑むなら絶望的だが、ぬかるみなら缶ぽっくりでもなんとかなるかもしれない。
竹馬ならまだしも、缶ぽっくりでは足は濡れてしまうだろう。普通に歩いた方が楽であることは「わたし」もわかっている。わかっているが、缶ぽっくりのままぬかるみを渡りきらなければ「わたし」には意味がないのである。なかなかうまくいかず「そろそろ終わろうか?」と言われても「ヤダ。できるもん」と諦めない小さな子供のようだが、大きくなっても失ってはならないものがあることを、この句の「わたし」は知っている。
句が示すことから離れてイメージや音をひとつひとつ確認すると、小さな子供が使う「缶ぽっくり」と「まま」(母)が近くにある。「まま」とは「ぬか」(糠)と「るみ」(人名)が近い。「ぽっくり」はこれらとは音の相性がいい。意味としては遠いが、「ぬかるみ」で「ぽっくり」はありそうである。これら全てがひらがなである点がこの句の印象に影響している。
強いイメージがある「缶ぽっくり」を、「わたし」の現状を示す「ぬかるみ」に置き、さらに様々なつながりがあるひらがなの言葉を用いることによって主張が強められている。
没のポイント3(おやつリスペクト)
1 分かち書き
文芸川柳では空白にも意味があります。五七五の区切りに空白を入れたご投句がたまにありますが、空白が句意に効いていない場合はボツです。
2 近すぎる言葉
示すイメージが重複しすぎている言葉が多い句はボツです。近い言葉を使っている場合は、イメージの重なりが主張に効いているかよく確かめて、効いていない場合は省いて別の情報を加えましょう。
3 その他諸々
ボッツ!オラ、ボツウ!
【定期】掲載順
1句目、2句目はユーモア、時事吟など比較的インパクトがあると判断した句で、平抜き上位と同じくらいの評価
3句目が入選句の中では一番下と評価した句で、3句目以降は下に行くほど順に良いと判断した句です。